輝き ~ 脱・三日坊主計画

要約だよ人生は

チューリングという人〜「イミテーション・ゲーム」を観て

"Sometimes it is the people no one can imagine anything of who do the things no one can imagine."

日本語訳:「時として誰も想像しないような人物が想像できない偉業を成し遂げる。」

昨日鑑賞した洋画「イミテーション・ゲーム」は、20世紀を代表する数学者・計算機科学者の一人アラン・チューリングの、主に第二次世界大戦中における活躍を映画化したものである。現在はAmazon Prime Videoなどの配信でも見ることができる。

imitationgame.gaga.ne.jp

映画を見終わってみて、同じく情報系に携わる人間にぜひこの作品を教えたいという気持ちと、チューリングその人についてもう少し詳しく知りたいという気持ちになった。今日は、映画の内容と照らし合わせながら、チューリングという人物について簡単にまとめてみることにしよう。


チューリングという名前は、コンピュータサイエンスを学ぶ人間であればどこかで聞いたことがあるはずだ。彼の名を残す概念として、真っ先に挙がるのは計算モデル「チューリングマシン」だろう。一般的なプログラミング言語には、このチューリングマシンと同等の計算能力があり、計算完備であるとされる。現在当たり前のように用いられているコンピュータの端緒はこの計算モデルにあり、彼の存在なくしてはコンピュータの登場はもっと遅くなっていたかもしれない。さらに彼は、昨今になって再び隆盛しつつある人工知能の分野における草分け的存在でもある。「チューリング・テスト」で検索すれば彼が「人工知能の父」とされる所以が分かるのではないだろうか。

映画ではこのチューリングマシンの発表より少し後、戦時中のドイツ軍が使用していたエニグマ暗号機を利用した通信に存在する暗号解読に焦点を置いている。チューリングらの活躍で戦時中に暗号機の設定は解明され、しかし解明した事実を連合国側は秘匿したために、ドイツは仕組みが破られていることを知らずに敗戦までエニグマを使い続けることになった。この事実は戦争が終結し、チューリングの死後しばらく後までも秘密にされていたため、彼が健在だったうちに彼の功績を知る者は少なかったという。暗号の解読成功により、戦争は予想されていた時期より2年早く終結し、それによって救われた人間は1400万人にも上ると推計されるが、チューリングはこの功績による恩恵をあまり受けられなかったのだ。
映画中でもよく描かれているのだが、大方の数学者の例に漏れず、チューリング偏屈な性格の持ち主だったという。暗号解読はチームを結成してのプロジェクトであったが、初期は協調性がなかったり、当時はまだ一般的でなかった電気機械を用いて解読を試みることを思いついたり、頭脳派の集うブレッチリー・パーク*1のHut 8の中でも飛びぬけた変人だったそうだ。しかし、その天才肌を買われたことで、解読不可能とまで言われ続けた暗号を見事に見破ったのだった。

一方、チューリングホモセクシュアルであった。LGBTに対する偏見が見直されつつある21世紀はともかく、当時のイギリスでは同性愛そのものが違法とされており、ひょんなことからそれを告発されたチューリングは懲役こそ免れるも化学去勢を余儀なくされる。苦悶の末、彼は41の若さで青酸中毒によって自殺してしまう。チューリング・テストに関する論文を世に出してわずか4年後の事であり、偏見による断罪がなければ人工知能ブームはもっと早くから興っていたかもしれない。結局、彼は死後にようやく、その功績を讃えられることになる。

 

チューリングは往々にして「普通」とされた道を外れて行動し、常人なら思考すらやめてしまうような事実にブレイクスルーをもたらした。はじめの引用文は映画で3度用いられるキーワードだが、確かにどの時代においても、逸材は唐突に現れて「不可能」を「可能」にしてきた。その逸材というものは一般人と比較して並々ならない個性があるからこそなれるもの。協調性を取れないのではもちろん問題ではあるけれど、人格を構成する要素に尋常でない個性をどれか一つでも周囲に見出すことができれば、やがて「誰も想像しないような人物」が「想像できない偉業を成し遂げる」人物になりうるのではないか、と考えさせられる。

*1:チューリングが勤務していた、第二次世界大戦中に置かれた政府暗号学校